「よろしくお願いします!」
今日は、新入生が部活を本格的に始める日だった。どこの部も、3年の先輩が、自分たちの部は何を目指しているのか、とかどんな部にしたいか、などを新入生に話していた。しかし、ここ、男子テニス部のみは、何やらざわついた雰囲気だった。
「今日から、ここのマネージャーになった、 といいます。わからないことも、たくさんありますが、精一杯頑張ります!」
そう言ったのは、明らかに女の子だった。身長も低く、体力や力が無さそうで、みんなは不安になった。
「榊監督は、私の伯父で、小さい時からテニスを教わりました。だから、テニスの知識はあります。それに、親が医者なので、医療の知識も、少しはあります。そして、今回、榊監督にマネージャーをやってくれないかと頼まれ、この部に入ることになりました。」
口調はハキハキとしているし、あの榊監督の姪と聞き、みんなは少し、安心した。しかし・・・。
「はい!質問です!身長は何cmですか?」
と誰かが質問した。
「えっ・・・・・・。え〜っと、150cmぐらいです。」
この部に入ることと、身長がどう関係するのか、と悩みながらも、は答えた。みんなは、やはり、こんな小柄な子にマネージャーの仕事が出来るのだろうか、と不安が戻った。しかし、1人だけ、不安がらす、むしろ喜んでいる奴がいた。・・・それは、さっき身長を聞いてきた奴だった。
「よっしゃ〜!これで、この部で1番のチビが、俺じゃなくなった〜!」
そう言って、飛び跳ねているのが、さっき質問をした奴、もとい向日 岳人だった。
「向日の奴、激ダサだな・・・。」
「ホンマや、岳人。男子テニス部に入ってるかて、男とちゃうねんで?ちゃんは、女の子やねんし・・・。女の子に勝って、嬉しいんか?」
そう言って、テニス部の仲間たちは、向日を馬鹿にした。
「俺は、男女差別しねぇんだよ!」
「意味わかって言ってんのか?」
「うっせー!アホべ!」
・・・とにかく、向日の玩具(?)が出来たのだった。
「お〜い、。一緒に帰ろうぜ。」
「いいですけど、鳳先輩と宍戸先輩も一緒でいいですか?」
「・・・・・・駄目だ。」
「えっ?」
まさか、駄目だと言われるとは思っていなかったので、は驚いた。
「とにかく、鳳たちには俺が言っとくから、2人で帰ろうな!」
「えっ・・・、ちょ、ちょっと・・・!」
が呼び止めようとしたが、向日はすでに、走って行ってしまった。
しかし、なぜそこまで、向日は2人きりで帰ることに、こだわったのだろうか?
「あっ!鳳先輩!宍戸先輩!・・・あの、向日先輩から聞きましたか?」
「・・・あぁ、あれ?聞いたよ。」
「すいません・・・。鳳先輩が先に、家が近いからって、誘ってくれたのに・・・・・・。」
「いいよ、いいよ。さんの所為じゃないし。」
「すいません。・・・それにしても、向日先輩、どうして鳳先輩と宍戸先輩がいたら、駄目なんでしょう?」
「もしかして、俺たち、嫌われてるのかな。」
「そんなことないですよ!」
理由其の壱:鳳、宍戸の1人、もしくは両方が嫌いだから。 ・・・・・・否。
「・・・じゃあ、さんが好きだ、とか?」
「それも、無いです・・・!」
理由其の弐:が好きだから。 ・・・・・・否。
「たぶん、あれだ。」
「えっ、宍戸さん、わかるんですか?」
「あぁ。・・・きっと、俺たちと歩きたくなかったんだ。・・・特に長太郎と、な。」
「俺と・・・?」
「アイツ、自分より背の高い奴と歩きたくねぇんだ。」
「「なるほど。」」
理由:自分より背の高い人と歩くと、自分が小さく見えるから。逆に、小さい人と歩くと、自分が大きく見えるから。
別の日・・・。
「ー!」
部活動が休憩に入ると、向日は走っての所に来た。
「はい、なんですか?」
「1年は、もう身体測定やったのか?」
「はい、やりました。3年生もやったんですか?」
身体測定をやったのか、どうかを問いたのに、向日はそれには答えず、自分の言いたいことを言った。
「それがさ、1cm伸びてたんだよ!は?」
「1cmも・・・!私は、0.5cm程しか伸びてません・・・。」
「よかったじゃねぇか、伸びてるんだから!侑士なんて、0.3cm縮んだ、って言ってたぜ?」
「それは、測定の仕方で変わったんでしょうね。」
「まぁ、とにかく、よかったな。じゃあな!」
そして、ご機嫌に走っていった。
「・・・おかしいなぁ。」
いつも向日は、自分より小さいと馬鹿にするのだ。しかし、今日は馬鹿にするどころか、「よかったな」と励ましてくれた。一体、どうしたのだろうか?
「あっ。忍足先輩。」
「なんや?」
「今日、向日先輩、どうしたんですか?」
「なんで?」
は事情を説明した。
「あぁ。そういうこと、か。」
「わかるんですか?」
「まぁな・・・。ちゃんは、どう思う?」
「私、ですか?・・・そうですね。・・・・・・自分の身長が伸びたから、でしょうか?」
理由其の壱:自分の身長が伸びたので、機嫌が良かったから。 ・・・・・・否。
「まぁ、惜しいかな。他は?」
「他、ですか・・・。う〜んっと・・・。自分の方が、まだ背が高いから?」
理由其の弐:自分の方が、まだ高いので、安心したから。 ・・・・・・否。
「まぁ、それもあながち間違ってへんねんけど、俺はこうやと思う。自分も背が伸びてたら、嬉しい。その気持ちがよぅわかるんやろう。」
理由:同じ悩みを持っている、その分、同じ喜びも持っているから。
「たしかに、それが1番しっくりきますね。」
別の日・・・。
「ちゃん。岳人が呼んどったで。」
「えっ・・・。・・・そうですか。」
「ん?どうしたん?」
「いえ、何も・・・。」
「なぁ、岳人。ちゃん、どうしたん?」
「・・・えっ。・・・あっ、悪ぃ。聞いてなかった。・・・なんだ、侑士。」
「・・・いや、なんでも。」
何やら、2人の様子がおかしい。一体、何があったのか?
「鳳、宍戸。最近、ちゃんと岳人。様子、おかしない?」
そう、忍足は言った。
「忍足先輩も、そう思いましたか。俺達も、そう思うんです。」
「だな。あいつら、何かあったのかよ。・・・喧嘩とか?」
理由其の壱:向日とが喧嘩をしたから。 ・・・・・・否。
「そんな様子は、無かったで。なんか、もっと複雑そうな・・・。」
「もしかして、どちらかが告白したとか?」
理由其の弐:どちらかが告白し、そしてふられた。 ・・・・・・否。
「2人とも、そんなことするか?・・・第一、自分の気持ちにも気付いて無さそうだぜ。」
「・・・それや!宍戸。」
理由:2人とも、自分の気持ちに素直でなれないでいるから。
「そうとわかれば、早速、協力しないと・・・!」
鳳と宍戸は、の所に来ていた。
「さん。」
「・・・鳳先輩、宍戸先輩。どうしましたか。」
「それは、こっちのセリフだ。」
「えっ?」
全く意味がわからない、という顔をしているに、鳳は本題に移した。
「あのね、さん。最近、さんの様子がおかしいように俺達には見えるんだけど、何かあったの?」
「・・・・・・いえ。」
「言いたくないんだったら、いいんだけどね。・・・俺達も心配だからさ、出来れば言ってほしいんだ。」
そう、鳳は控えめに言った。その方がよいと、鳳が思ったからだった。・・・そして、その作戦は成功、効果覿面だった。
「・・・あの、実は・・・・・・。・・・なんだか私、変なんです。向日先輩がからかってきても、前だったら、言い返したり、笑い合ったりして、何も気にならなかったんですけど・・・。・・・最近は、それが妙に気になって・・・・・・。」
「どういう風に気になるの?」
鳳は、もっと深く聞こうとした。
「・・・私のことを、どう思っているんだろうとか。」
「それって、好きになってるんじゃない?」
鳳がそう言った。
「えっ!・・・そ、そんな、向日先輩に・・・・・・。」
「だけど、気になってるんでしょ?向日先輩のこと。」
「それは、そうですけど・・・。」
は、自分の気持ちに気付いていないから、なかなか認められなかった。
「前は、向日先輩にからかわれて、それに言い返したり、笑い合ったりするだけで楽しかった。それで、さんは満足してたんだよ。だけど、最近は、それだけでは満足できなくなった。このまま仲の良い友達のような付き合いは嫌だ、って思うようになったんだよ。だから、向日先輩が自分をどう思っているのかが、気になる。・・・というより、向日先輩はこのままの付き合いがいいと思っているのかが、気になるんだろうね。」
「・・・・・・・・・。」
黙っているに、鳳は言った。
「さん、もしかして、初恋してない?」
「えっ・・・?あ、はい。」
「じゃあ、これが初恋だよ。」
鳳がそう、はっきり言うと、は赤面した。そして、それを見て鳳は言った。
「それが、何よりの証拠だよ。・・・さん、早く自分の気持ちと向き合って、今すぐ伝えに行った方がいいよ。きっと、向日先輩も同じことで悩んでるから。」
「・・・あの・・・。ありがとうございます・・・。」
「いいよ、いいよ。向日先輩なら、部室付近にいると思うから。」
「は、はい。」
そう言うと、は走って行った。それを見て、今まで黙っていた宍戸が言った。
「・・・長太郎、なんか熱入ってたよな。」
「いや、なんか、他人の初恋の応援って、したくなるじゃないですか。」
「まぁ、それはそうだが・・・。」
やりすきだろ、そう宍戸が思っていたのは、余談である。
一方、忍足は向日の所に来ていた。
「なぁ、岳人。」
「ん?どうした?」
「なんか、あったんか?」
「何が?」
「ちゃんと、やん。」
「・・・・・・別に。」
なかなか手強いやろうな、そう忍足は思っていた。
「なんか、ちゃんの前で岳人の名前出すと、表情が厳しなるし、岳人は岳人で、最近、上の空やし。」
「・・・が俺のこと、嫌ってるんだろ?」
どうやら、向日は勘違いをしているようだった。
「そうやったら、嫌か?」
「当然だろ!」
「・・・それって、ちゃんのこと、好きなんとちゃうん?」
そして、忍足は―鳳がに言ったように―向日に言った。
「べ、別に好きじゃなくても、人に嫌われたくないだろ?!侑士だって。」
「まぁ、そうやなぁ。・・・そやけど、嫌いな奴には、別に嫌われてもえぇで。」
「のことは、嫌いじゃねぇもん。」
「じゃあ、好きなん?」
「だから・・・!なんで、そうなんだよ!」
「・・・岳人。初恋って、まだ?」
忍足は、急にそう言った。
「まぁ・・・。・・・って、なんで今、それを聞くんだよ?!」
「ほな、ちゃんが、初恋の相手っちゅうことか〜。」
「って、だから・・・!」
「岳人。・・・自分の気持ちに向き合った方がえぇで?素直にならんくて、得することなんて、1つもあらへんから。」
今まで、からかっているような口調だった忍足が、急に真面目になって言った。
「・・・・・・・・・。」
その真面目な口調に驚いたのか、向日は黙った。しかし、また戻って忍足は言った。
「あれ?あそこにいるのは、ちゃん?」
忍足が指さした方を見ると、そこにはがいた。どうやら、こちらに走って来ている最中のようだ。
「それじゃ、俺はここで。」
そう言って、忍足は立ち去ろうとした。
「お、おい!侑士!」
「岳人。大丈夫やて。・・・ま、頑張りや。」
何が頑張れ、だ・・・、そう向日は密かに思っていた。
「向日先輩!」
そこにが来た。
「・・・どうした?」
「あの、私・・・。・・・向日先輩のこと・・・・・・!」
「ちょっと、待った!」
「えっ・・・?!はい・・・・・・。」
意を決して、は言おうとしたが、向日に止められてしまった。
「、俺はお前が好きだ。」
そして、向日が言ったのだった。
「・・・・・・・・・本当ですか・・・?!あの・・・。・・・私も、です。」
その後、が言った。
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
しかし、2人とも、その後、何を言えばいいのかわからず、黙っていた。
「あ、あのさ。」
その沈黙を破ったのは、向日だった。
「俺、なかなか自分の気持ちに素直になれなくて・・・。ただ、が離れていくのが、怖かった。だけど、それが好きって気持ちだとは、気付けなくて、さっき侑士に言われて、やっと気付いたんだ。」
「私もなんです。向日先輩と仲良くできるのはいいけど、このままでいいのかな、みたいなことを思って・・・。でも、それが好きって気持ちだとは、気付けなかったんです。それで、さっき、鳳先輩に言われて・・・。」
そう言うと、2人とも笑い出した。
「なんだ、俺達似てるな・・・!」
「ホント・・・!」
そうして、2人は、両想いになりましたとさ。めでたし、めでたし。
ところが・・・。
「お、岳人。告白したん?よかったやん。」
「ま、まぁな・・・//」
「もちろん、岳人から『付き合って』って言うたやんなぁ?」
「いや。」
「えっ。岳人の奴、ヒドイなぁ。・・・じゃあ、ちゃんに言わしたんか?」
「いや、どっちも『付き合って』とは、言ってねぇぜ。」
「は?なんや、それ。・・・・・・まぁ、えぇけど・・・。」
2人の初恋。まだまだ、問題が起こりそうだ。
あ〜・・・。向日さんが男前じゃない・・・!!orz
これは、もう、どっからどう見ても馬鹿扱いですね・・・。もし、私の書く『男前がっくん』を少しは楽しみにしてくださっている方が万が一にもいらっしゃいましたら、すみません・・・。
そして、がっくん。ごめんよ・・・!!
あと、これを見て、思ったんですが。
「付き合って」と言わなければ、付き合ったことにはならないんですかねぇ?
まぁ、本人たち次第ですね。・・・って、自問自答でスミマセン;;(笑)